妊娠後期のメンタル不調の原因は?情緒不安定で泣く・イライラするときの対処法

いよいよ出産間近となる妊娠後期。

なんだか最近気分が落ち込む、ちょっとしたことで泣いたり怒ったりしやすくなった、やけにイライラする…と、以前と比べてメンタルの不調や情緒の不安定さを感じている妊婦さんも多いのではないでしょうか?

もしくは、出産を控えた友人が最近ちょっと情緒不安定、とご心配されている方もいらっしゃるかもしれません。

そこで今回は看護師の新井さんに、妊娠後期から出産にかけて妊婦さんのメンタルが不安定になる原因と対策、いわゆる“マタニティブルー”と同じなのかについて教えていただきました。

れいこ先生
みらいく高田 看護師
新井れいこ
2018年より「病児保育室おひさま」に勤務。
不安な時に利用する病児保育室だからこそ、子どもたちが安心して過ごせるよう、親御さんに預けてよかったと感じていただけるよう務めています。

妊娠後期はなぜメンタル不調・情緒不安定になりやすいの?

yamada
山田

娠後期とは具体的にいつ頃を指しますか?また、なぜ妊娠後期になると情緒不安定になったり、気分が落ち込んだりするのでしょうか?

れいこ先生
れいこ先生

妊娠後期とは、基本的には妊娠28週0日目~39週6日目(妊娠8~10か月)の期間を指しますが、予定日を超える妊婦さんも多いため、実際は「妊娠28週~出産の前まで」のことを言います。

妊娠後期になると女性ホルモンが増加し、ホルモンバランスが変わることで、イライラや不安感が出やすくなると考えられています。そのため、些細なことが煩わしく感じたり、今まで気にならなかったようなことが気になったりします。

れいこ先生
れいこ先生

また、だんだんと変わっていく自分の姿や、身体の動かしにくさ、赤ちゃんが大きくなり自分の胃や肺・膀胱や腸などを圧迫されることで感じる身体の不調、陣痛への恐怖や、母親になることへの重圧感など、様々なストレスが不安を加速させる要因となります。

妊娠後期のメンタル不調と“マタニティブルー”は同じもの?

yamada
山田

妊娠後期に入ると、身体的にも精神的にも妊婦さんの負担が増えていくのですね。

ところで、出産を控えた女性に起こりやすい症状としてよく似たものに “マタニティブルー”があります。妊娠後期のメンタル不調とマタニティブルーは同じものですか?

【一般的にマタニティブルーと呼ばれる特徴】

  • 些細なことでイライラしやすく、怒ることがある
  • 理由もなく気分が落ち込む
  • 唐突に不安感に襲われる
  • 急に泣き出す
  • なかなか寝付けない、眠りが浅い
  • 常にだるい、疲れやすい
  • 食欲がない ・・・など
れいこ先生
れいこ先生

マタニティブルーとは、医学的に定義されたものではありませんが、一般的に妊娠中の不安定な状態のことを指す場合が多いです。妊娠後期のメンタル不調は、「マタニティブルーのひとつ」と言ってよいでしょう。

“マタニティブルーズ”との違い

れいこ先生
れいこ先生

実は、世間で言われるマタニティブルーとは別に、医学的に定義された“マタニティブルーズ”というものがあります。

こちらもマタニティブルーと呼ぶことがあるので混同されがちですが、マタニティブルーズは産後3~10日以内に始まり、産後2週間ほどで改善する一過性の抑うつ状態のことを指します。不意に涙が出る、孤独感や絶望感を感じる、集中力の低下、といった症状が出現します。

れいこ先生
れいこ先生

これは出産直前までに分泌量が高まっていたエストロゲンやプロゲステロンが、出産により一気に低くなることでホルモンバランスの変化が起こり、自律神経に影響を及ぼすため精神的な不安定さを引き起こすと考えられています。

yamada
山田

医学的に定義された“マタニティブルーズ”というものがあることを初めて知りました。

れいこ先生
れいこ先生

他にも、産中産後のストレスや疲労、慣れない育児や母親としての重圧感など、様々な心身の疲労が“マタニティブルーズ”に影響していると言われています。

これらの症状は特に治療せずに落ち着いていくものですが、この時期に一人で抱え込んだり、疲労を溜めたりしすぎると産後うつに移行してしまう恐れもあります。特に初産婦や育児支援の少ない方、妊娠前や産前から精神的不調があった方に起こりやすい傾向があります。

れいこ先生
れいこ先生

ひとりきりで頑張ろうとせず、出産前に育児や生活に関するサポートサービス・行政支援などを調べておいたり、パートナーや家族・友人に話を聞いてもらったりと、色々な相談先を作っておくとよいですね。

妊娠後期、できるだけ穏やかな気持ちで過ごすためには?

yamada
山田

できるだけメンタルを安定させて安心してお産を迎えられるよう、妊婦さん自身やまわりの人ができることはありますか?

れいこ先生
れいこ先生

妊娠後期をなるべく穏やかに過ごすためには、なんといってもリラックスすることが大切です。

読書や映画、お茶やアロマなど自分のための一人時間を楽しむのもよいですし、生まれてくる赤ちゃんのために部屋を整えたり、ベビーグッズを手作りしてみたりするのもよいですね。

れいこ先生
れいこ先生

多くの女性は人と話したりスキンシップをしたりすることで安心感を得られますので、パートナーや家族、親しい友人と楽しく過ごすのもおすすめです。赤ちゃんが生まれるとパートナーとの時間はどうしても減ってしまいますので、今のうちにふたりの時間をゆったりと過ごしましょう。

また、適度な運動も気持ちを整えることができます。

妊娠中の運動としてメジャーなマタニティヨガは、腹式呼吸をすることで自律神経を整える効果があり、気持ちを落ち着かせるだけでなく、心拍や血圧を安定させ、胃腸の働きもよくし、睡眠も改善してくれます。ゆっくりとした呼吸を意識してストレッチやウォーキングをするだけでも効果があります。

れいこ先生
れいこ先生

新しく運動を始める場合は、必ず事前に妊婦健診の際に医師に相談しましょう。

いくつかリラックスする方法をご紹介しましたが、一番大事なことは妊婦さん自身が「妊娠中の気分のムラは仕方ないこと」と受け止め、イライラしてしまう自分を許容することです。感情をコントロールできない自分を責めず、気分を落ち着けるために今できることを探してみましょう。

妊娠後期、周囲の人が注意するべきポイントは?

yamada
山田

夫や里帰り先の家族、同僚や上司・友人など、周囲の人はどのような点を心がけるとよいでしょうか?

れいこ先生
れいこ先生

妊娠中は、妊娠する前と物事の受け止め方も受け流せる程度も変わってしまいます。それは妊婦さんが我儘になったわけではなく、妊娠したことで変わったホルモンバランスの影響です。

「それぐらいのことで?」と思うようなことでも、容易に傷ついてしまうことがありますので、妊婦さんの気持ちに寄り添うことが大切です。

妊娠後期は、周囲の人も次のようなポイントを意識しながら過ごしましょう。

話を聞く

妊娠中は感情がジェットコースターのように上がったり下がったりと、ちょっとしたことで不安になりやすい状態です。話の内容は答えのないことも多いですが、無理に解決策を提示する必要はありません。

れいこ先生
れいこ先生

聞いてあげるだけで安心することも多いので、途中で口を挟まずにじっくりと話を聞きましょう。

軽口や悪い冗談は控える

妊娠前は冗談と流せていたことも、重く受け止めてしまうようになりがちです。特に妊婦さんの容姿や、赤ちゃんの発育・発達に関することへの揶揄は、妊婦さんの心を深く傷つけてしまいます。

れいこ先生
れいこ先生

もしも言ってしまったときは、真摯に謝り妊婦さんの気持ちを受け止めましょう。

他の人と比較しない

妊婦さんのことで気になることがあると、ついつい「○○さんはこうだった」「○○さんはそんなことなかった」と他の人と比べてしまいがちですが、妊娠経過や身体の状態は人それぞれです。また本人であっても、前回の妊娠の時とは状態が違います。

れいこ先生
れいこ先生

誰かと比べて指摘することは控えましょう。

妊娠中はとにかく疲れやすいのでケアを

れいこ先生
れいこ先生

妊婦さんは赤ちゃんをただお腹に入れているだけではありません。

赤ちゃんを成長させるため、赤ちゃんが生まれるその日まで子宮に留めておくため、妊婦さんの身体は赤ちゃんのために日々変化しています。身体が辛いと情緒を安定させるのは難しいですから、妊婦さんが疲れていたらしっかりと休めるように配慮し、代われることはしてあげましょう。

れいこ先生
れいこ先生

また、難産を心配するあまり無理に運動をさせようとするのはよくありません。妊娠中のだるさの中には軽視してはならない病気が潜んでいることもあります。動くことを勧めるときは、妊婦さん本人の意思を尊重しましょう。

メンタルケア以外で妊娠後期に気をつけること

yamada
山田

最後に、メンタルケア以外にも妊娠後期の過ごし方について注意すべきことがあれば教えて下さい。

れいこ先生
れいこ先生

妊娠後期は赤ちゃんの成長に伴いおなかもぐっと大きくなり、出産に向けて身体が変化していく時期です。お母さんと赤ちゃんの健康のために、次のことを気をつけてみてください。

休養や睡眠をしっかりとる

身体の疲れは心身の不調を招くだけではありません。自律神経が乱れることで血流が低下し、赤ちゃんに行くべき血液量も減ってしまい発育・発達に影響が出ることも。

れいこ先生
れいこ先生

妊娠後期は眠りが浅くなりがちなので、夜間だけでなく日中も意識して休養を取るようにしましょう。

姿勢や動作に気をつける

お腹が大きくなることで足元が見えにくくなるのに加え、体重の増加や重心の変化によってバランスがとりにくくなっているため、急な動作は控えゆっくりと動くように心がけましょう。

れいこ先生
れいこ先生

また、大きくなったお腹を支えるために楽な姿勢をしがちですが、できる範囲で正しい姿勢を保つように意識しましょう。

仕事や運動は無理のない範囲で

長時間の通勤・立ち仕事や力仕事などは過労になりやすく、早産や妊娠高血圧症候群の原因にもなります。

勤務時間の調整や休養、配置転換などを職場と相談し、無理をしないようにしましょう(男女雇用機会均等法で母性健康管理について定められています。詳しくは母子健康手帳をご参照ください)。

れいこ先生
れいこ先生

日常的な運動は心身の健康のために適度に行うことが望ましいですが、身体に不安がある時の運動は控えましょう。

外出や旅行は余裕のあるスケジュールで

妊娠経過が順調であれば34週頃までは旅行もできますが、せっかくだからと予定を詰め込んでしまうと、身体に大きな負担がかかります。

また長時間の移動は同じ姿勢をキープすることで腹圧がかかりやすく、早産の原因にも。旅行前は問題なかったのに旅先で切迫早産になりそのまま入院…という事例も少なくありません。

れいこ先生
れいこ先生

妊娠中の外出や旅行は余裕を持ったプランを立てましょう。

食べすぎに注意

妊娠後期は、急成長する赤ちゃんに優先的にブドウ糖を送り、母体へのブドウ糖の取り込みを抑制する作用がある「ヒト胎盤性ラクトゲン」というホルモンが急増するため、食欲が増加する時期です。

しかし、空腹感に任せて食べ過ぎてしまうと、体重増加だけでなく、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群になってしまう恐れもあります。

れいこ先生
れいこ先生

空腹がどうしても抑えられないときは、一食のボリュームを抑えて回数を増やしたり、ヘルシーなおやつを取り入れたりして、上手に食欲と付き合っていきましょう。

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まとめ

今回は、妊娠後期に起こるメンタルの不調について看護師の新井さんに教えていただきました。

妊娠後期の不安定さはホルモンバランスの影響によるもので、一般的によく言われる「マタニティブルーの症状のひとつ」です。そしてそれとは別に、「産後3~10日以内に始まり産後2週間ほどで改善する一過性の抑うつ状態」のことを指す医学的に定義された“マタニティブルーズ”というものもあるということがわかりました。

妊婦さんがセンシティブになる妊娠後期、なるべく心穏やかに過ごせるよう、周囲の気遣いや妊婦さん自身が自分の感情の起伏を許容してあげることが大事です。

出産を前に不安もあると思いますが、今回のアドバイスを参考に、できることから少しずつ工夫してみて下さいね! 

この記事を書いた人

yamada
山田怜奈
長野県立大学グローバルマネジメント学科2年の学生ライターです。こどもについてもっと知っていきたいです!