発達障がいの中でも、知的発達に遅れが見られないという特徴を持つ学習障がい(LD)。
「聞いたことはあるけど、どんな症状かは知らない…」という親御さんも多いのではないでしょうか?
また、実際にお子さんに学習障がい(LD)があると診断された親御さんもいらっしゃるかもしれませんね。
今回は、言語聴覚士の北山先生に、学習障がい(LD)で現れる症状の特徴や種類ついてお伺いしました。正しい情報を理解したうえで、お子さんとの適切な向き合い方の参考にしていただけますと幸いです。
長野県出身。大学より小児医療分野に関わることを目指して言語聴覚士の資格を取得。実習では小児分野を多く経験し現在は脳外科に勤務しながら子育てポケットに参画している。2児の母。
目次
子どもの学習障がい(LD)の特徴
北山先生、よろしくお願いします。
今回は、子どもの学習障がい(LD)ついて教えてください。
よろしくお願いします。学習障がい(LD)は発達障がいの一つですが、知的発達の遅れが見られないという特徴があります。
知的障がいとは全く異なるもので、苦手分野以外の知的能力に問題が見られないことが多いため、発達障がいの中でも判断が難しいと言われています。
さらに、周りから「怠けているだけではないか?」と誤解されることが多く、自己肯定感の低下といった二次障がいを引き起こしやすいという点もあります。
具体的にどういった症状が見られるのですか?
聞く、話す、読む、書く、計算・推論する能力のうち、特定のものの習得と使用に著しい困難が生じます。
例えば、知的障がいの症状は全く見られないのに、なぜか字だけが読めない…といったお子さんが学習障がい(LD)と診断されることがあります。
世界的に有名な俳優のトム・クルーズも、読みを苦手とする読字障がいであることを告白しており、テープに録音してセリフを覚えていたというのは有名な話です。
子どもの学習障がい(LD)の3つのタイプと主な症状
学習障がい(LD)には様々なタイプがあるんですね。
学習障がい(LD)には3つのタイプがあります。詳しく説明していきますね。
読字障がい(ディスレクシア)
最初に紹介するのが、読字障がい(ディスレクシア)です。
読字障がいは、音読や黙読に困難が生じるもので、ひらがな、カタカナが単語で読めたとしても1文字で間違えてしまうことがあったり、文章を読んだ時に仮名の読み間違いが多く出現することがあります。また、漢字では「分からない」といった反応が多くなりがちです。
学習障がいと診断された方の中で最も多く見られるタイプで、欧米では約10%〜20%にこの症状が見られるとも言われています。
書字障がい(ディスグラフィア)
「文字が書けない」、「書いてある文字が写せない」といったように、書く能力に困難が生じる場合、書字障がい(ディスグラフィア)の可能性が指摘されます。
うまく書いているつもりでも鏡文字になってしまうなど、書く動作自体に困難が生じると言うものです。
なお、読字障がいと書字障がいをまとめて「読み書き障がい」と表現することもあります。なぜなら、読むことと書くことは繋がっているため、起こりやすい困りごとも重複している部分が多いからです。
読み書き障がいは、具体的にどういった症状が見られるのですか?
未就学児の場合、以下のような特徴が現れることがあります。
- 話し始めるのが遅い
- はっきりとした発音で話せず、しりとりなどの言葉遊びが苦手
- 名前を覚えるのが苦手で「あれ」「それ」「こんなの」といった指示代名詞が多い
- 斜めの線が書けない
- 読み聞かせは好きだが、文字への興味が乏しい
小学生の場合、先生が黒板に書いた文字を書き写すことができなかったり、漢字が苦手で覚えられなかったりといった症状が見られることがあります。
算数障がい(ディスカリキュリア)
算数障がい(ディスカリキュア)は、算数・計算など考えて答えにたどり着く推論に著しく困難が生じることを言います。
小学生になって繰り上がりのある足し算や、繰り下がるのある引き算でつまづいてしまうことが多く、この時点で先生や親御さんが算数障がいの可能性に気づくことが多くあります。
具体的な症状は、どういったものがありますか?
算数障がいでは、以下のような症状が見られることがあります。
- 簡単な数字や記号の理解が難しい
- 数の大小が分からない
- 文章問題が苦手で、理解できない
- 図形問題で同じ図を描くことができない
文部科学省の2012年のデータによると、知的発達の遅れがなく、計算または推論に著しい困難を示すと回答した児童は、全体の2.3%でした。また、算数障がいを持つお子さんは、音声言語、文字言語の障がいを併せ持つことが多いのも特徴の一つです。
【年代別】学習障がい(LD)の子どもに起こりやすい困りごとへの対処法
学習障がいのお子さんを持つ親御さんから相談をいただいています。
年齢によって起こりやすい困りごとが異なると思うので、幼児期・学童期の2つの年代別に、北山先生から対処方法を教えていただきたいと思います。
【幼児期に起こりやすい困りごと】言葉がなかなか覚えられない
【質問】
話し始めるのが遅く、言葉もなかなか覚えてくれません。どのように教えてあげたら良いでしょうか?
まず前提として、学習障がい(LD)は脳の特性によるものなので、視力が悪い人がものが見えにくいのと同じように、努力で解決するのが難しいということを理解することが大切です。
そのうえで、お子さんが視覚で捉えるのが得意なのか、聴いて覚えるのが得意なのかを判断し、得意な部分からアプローチしてあげると良いでしょう。
単語で覚えるのが難しいのであれば、比較的覚えやすいオノマトペ(擬音語・擬態語)などから徐々に覚えられる単語を増やしていってあげても良いですね。
【学童期に起こりやすい困りごと】勉強についていけない
【質問】
小学1年生の子どもがいるのですが、ひらがなが読めず、勉強についていけないようです。
「学校に行きたくない」と毎日泣いているのですが、親としてどのようなサポートをしてあげたら良いのでしょうか?
最近では、タブレットや音が出るペン、それに対応した教科書など様々な補助具が増えているので、学校側と相談して効果的に取り入れてみるのも良いかと思います。
「そんなもの使ってずるい…」と周りから思われるのではないかと不安な親御さんもいらっしゃるかもしれませんが、メガネと同じで使うからと言ってずるいというものではありません。
目が見えにくいから前の席に座るのと同じように、クラス全体に周知してもらったうえで、過ごしやすい環境設定を学校側にお願いしてみることが大切だと思います。
お子さんや親御さんだけで悩むのではなく、学校の先生や友だちの理解を得ながら、環境を整えていくことが大切なんですね。
そうですね。決してやる気がないわけではないので、できないからと言って責めないであげてください。
重度の場合、読み書きの困難がひらがなであっても、毎日の圧倒的な読み書き量によってできるようになるお子さんが多いのも事実です。ですが、カタカナや漢字に困難を残してしまい、周りから指摘されることで自信を無くしてしまうお子さんが多くいらっしゃいます。
読み書き障がいを周りに理解してもらえなければ、自己肯定感の低下によってあらゆることへの意欲が低下してしまうなど二次障がいに繋がってしまう可能性があります。
そうなることを防ぐためにも、周囲の理解を深めることが最も大切と言えるでしょう。
学習障がいの子どもとの向き合い方
学習障がいへの理解は深まったのですが、実際に学習障がいのあるお子さんを持つ親御さんの多くは、「子どもとどのように向き合ったら良いか?」で悩んでいるのではないかと感じています。適切な対応の仕方や能力の伸ばし方があれば教えていただきたいです。
わかりました。では、学習障がいのあるお子さんとの関わり方でおさえておきたいポイントを紹介しますね。
学習障がいへの理解を深める
学習障がいは、現時点で手術や薬物などで医学的な方法による根本的な治療法はありません。
学習障がいを持つお子さんと接するうえで一番大切なのは、特性を正しく理解してあげることです。学習障がいは誤解されてしまうことが多く、周囲から「努力が足りないだけ」、「もっと勉強しなさい」と叱られてしまうケースが多く見られます。
学習障がいは判断が難しいというのは、そういった理由もあるのですね。
そうですね、学習障がいは脳の機能障害が原因で起こると言われており、本人の努力ではどうにもならない部分もあるのです。困難を乗り越えるためには、周囲が特性を理解し、適切な関わりを持つことが必要不可欠です。
学習障害は治るものではありませんが、周りの理解を得ることが経験として身につけられれば、大人になってからの環境調整のしやすさにも繋がっていくでしょう。
能力を伸ばす療育を取り入れる
もう一つは、特性を受け止めたうえでお子さんに適した教育を行い、日常生活や学習での困難を軽減させてあげることです。このアプローチを療育と言います。
具体的にはどういったことを行うのですか?
簡単に言うと、得意なことを伸ばし、不得意なことは時間をかけてゆっくりと克服していくというものです。得意なことで成功体験を増やしてあげることで、自信を持って課題に取り組めるようになります。
療育はどこで受けることができるのですか?
自治体によって違いはありますが、発達障がいを専門とする病院や発達障がいを専門とする病院や公立・民間の児童発達支援センターなどで行われています。まずは、地域の保健師さんや小児科の先生に相談してみると良いでしょう。
まとめ
学習障がいは、親御さんのしつけや教育、本人の努力不足によるものではないことは医学的にも証明されています。
また、発達障がいの中でも判断が難しく、周りからの理解が得られなければ、自己肯定感が低下し、本人が生きづらさを感じてしまうことがあります。
一番大切なのは、周囲の人が学習障がいの特性を理解し、適切なサポートをしてあげることです。
苦手なことばかりに目を向けるのではなく、お子さんとの長所を伸ばしてあげられるような関わりを持ってあげてくださいね。
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この記事を書いた人
広島県在住。0歳女の子の子育てに奮闘するママライターです。 自分が今まさに「知りたい!」と思っているテーマを、皆さんに分かりやすくお伝えします!