【看護師に聞く!】子どもがやけどをしてしまったら?家庭でできる処置と病院受診の目安をご紹介

子どもは乳幼児になると、興味の範囲や動ける範囲が広がり、活発に動きます。大人が目を離した隙に、子どもが“やけど”をしてしまうということも日常でよくあるトラブルです。

乳幼児の皮膚は、大人に比べて薄いため、やけどのダメージが皮膚の奥深くまで影響して、重傷化する恐れがあります。しかも、やけどを負うとその部分から水分が多量に失われていきますが、乳幼児は体の水分量が少ないので大人より脱水状態になりやすく、全身状態が悪化しやすい傾向があります。

そこで今回は、子どものやけどについて、慌てずに対処できる方法を看護師の大藏さんに伺いました!

みらいく小布施 看護師
大藏あみ
一人一人にじっくり寄り添える病児保育。不安な気持ちが少しでも和らぐように、楽しく笑顔で保育をしています。 「ここがあってよかった」と思っていただけるようなあたたかい居場所づくりを目指しています。

やけどする温度と時間

yamada
山田

そもそもどれくらいの温度からやけどになるのでしょうか?

あみ先生

70℃のものが触れた場合、1秒で皮膚の損傷が始まります。一瞬触れた場合では、水が沸騰する100℃で皮膚の表面が損傷し、130℃で皮膚の内部が損傷を受けます。

電気ポットや炊飯器の蒸気口から出る蒸気の温度は、間近で約99℃、3~5cmのところで80~90℃の高温となっており、皮膚に直接高温の物質が当たらなくてもやけどを負う恐れがあります。熱湯、蒸気、鍋等の熱くなっている部分には注意しましょう。

あみ先生

また、低温やけどにも気をつけましょう。人が火傷する温度は45℃と言われています。皮膚が弱い人や子どもの場合には42℃から症状が出る場合もあります。

70℃以上だと瞬間的に熱いと感じるので長時間触れているということはないと思いますが、45℃程度では熱さを感じにくいため、長時間触れていると低温やけどをおこす恐れがあります。

45℃程度だと、接触している部分が約6時間で低温やけどになってしまいます。50℃、60℃と温度が高くなればなるほど、低温やけどまでの時間は短くなります。長時間、電気カーペットの上で寝ていたり、ストーブの近くで過ごしていたりすると、しばらく経ってから痛みや水ぶくれの症状が出てくることがあるため、注意が必要です。

子どものやけど、家でできる処置とは?

yamada
山田

子どもがやけどをしてしまった場合、家ではどんな処置をするとよいでしょうか?

まずは「すぐ冷やす」「乾燥させない」

あみ先生

最も大事な処置は「すぐに冷やす」ことと「乾燥させないこと」です。

子どものやけどの原因で一番多いのは、液体によるやけどです。流水や、氷を入れた袋、保冷剤を包んだタオルで、熱が下がるまでしっかりと患部を冷やしましょう。

受傷部位が衣服に覆われている場合、衣服を脱がす時に皮膚もはがれてしまう恐れがあるため、脱がさずに冷やすようにしましょう。

やけどをした部位は、熱が下がった後も組織損傷が進んでいきます。組織損傷の進行を止め、痛みを軽減させるために、流水の場合は20分程度、氷を入れた袋や保冷剤を包んだタオルの場合は30分程度冷やすようにしてください。

以下に冷やす時の注意点をまとめました。

冷やすときの注意点

  • 氷は直接皮膚に当てず、タオルや布で包んでから冷やす。
  • 顔など水を流すのが難しい部位は、水を浸した清潔なガーゼやタオルを患部に当て、冷感がなくなったら何度も取り換える。
  • 冷やしすぎて低体温にならないように注意する。

水ぶくれができた場合

  • 水ぶくれは破れないようにする。
  • もし水ぶくれが破けた場合、ラップ等で覆い、上に清潔な布をかぶせた上から冷やす。

病院を受診する目安は?

yamada
山田

病院を受診すべきかの判断の参考になる目安を段階別に教えて頂きたいです。

また、病院に行った際に医師に伝えるべきことはなんですか?

あみ先生

やけどの深さと面積によって、家で様子を見る・受診する・救急車を呼ぶ等の対応は変わります。

病院に行く場合は、やけどの原因によって処置が変わってくるため、何が原因でどのようにやけどしたのか、子どもの持病、飲んでいるお薬について医師に正確に伝えてください。

病院を受診すべきかの判断の参考になる目安は、下記のフローチャートをご覧ください。

あみ先生

また、やけどの深さは受傷した皮膚の症状によって、以下の通り4段階に分類されます。

I度熱傷:冷やして自宅で様子をみる

yamada
山田

子どものやけどで「様子を見る」という判断を下すのは、どんなケースでしょうか?

あみ先生

受傷部位が指先だけ等、子どもの手の平よりも小さな面積で、水ぶくれになっていなければ、大きな心配はないと言えます。

やけどした箇所をしっかりと冷やして、痛みや赤みが落ち着くまで様子を見ましょう。詳しくは以下をご覧ください。

【やけどの深さ】

障害組織が皮膚の外側にある薄い膜(表皮)のみの、最も軽いやけどです。表皮は、異物の侵入や体内の水分が蒸発するのを防ぎ、皮膚内部を保護してくれる役割があります。

【見た目】

やけどをした部分だけ皮膚が赤くなります。

【症状】

ずきずきと疼くような痛みや熱さを感じます。

【治療と治るまでの期間】

冷やしていれば数日程度で治まることがほとんどです。特に治療も必要ありません。日焼けはⅠ度熱傷。

浅達性II度熱傷:診療時間内に『形成外科』または『皮膚科』のある病院を受診する。

あみ先生

以下のような場合は、診療時間内に病院を受診しましょう。

【やけどの深さ】

皮膚の大半を占める「真皮(しんぴ)」の浅い層に達しているやけどです。真皮は表皮より深く、血管・リンパ管・汗腺も通っていて、厚さは2mmほどです。

【見た目】

表面がくずれる、白っぽくなる、水ぶくれができる等、目に見えて症状がわかります。

水ぶくれは、損傷した組織の成分や血液が固まった際の淡黄色の液体が、表皮に溜まってできます。

【症状】

疼くような激しい痛み・熱くてひりひりする「灼熱感」、知覚が低下して何も感じなくなる「知覚鈍麻(ちかくどんま)」も起こりえます。

【治療と治るまでの期間】

患部を冷却して、水ぶくれを破らないよう清潔なガーゼで保護してから、すみやかに病院を受診しましょう。2週間以内には治ることが多いです。

深達性II度熱傷:至急「形成外科」または「皮膚科」のある病院を受診する。

あみ先生

以下のような場合は、すぐに病院を受診しましょう。

【やけどの深さ】

表皮の下の真皮の深い層にまで達しているやけどです。

【見た目】

皮膚が白っぽくなり表面がくずれ、水疱が破れやすい状態になります。

【症状】

激しい疼痛があり、灼熱感や知覚鈍麻が一緒に見られます。

【治療と治るまでの期間】

治るまでに4週間はかかるとされています。

傷がふさがっても、引きつり・かゆみ・痛みを伴い、赤く盛り上がることがあります。これは「肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)」と言い、真皮の中層にまで達する損傷を起こした際、傷の治りが悪いとできるものです。治るにつれて赤みが赤紫色へと変わり、色が薄まって平たくなります。

しかし、やけどの程度によっては軽度の盛り上がりを残す場合もあるでしょう。

III度熱傷:救急車を要請する

あみ先生

以下のような場合は、救急車を要請して、すぐに病院を受診してください。

【やけどの深さ】

真皮のすべての層、皮膚のもっとも深い「皮下組織」にまで達しているやけどです。

【見た目】

皮膚全層が壊死して血の気がなく青ざめた状態で、皮膚がこげて完全に黒く炭化したやけどもここに分類されます。脱毛や乾燥も見られます。

【症状】

痛覚が損傷しているため痛みをほとんど感じない、「無痛性の状態」になっています。

【治療と治るまでの期間】

自然に治癒することはなく、「瘢痕(はんこん)」という傷痕ができることが多いです。傷を受けた部分に「細菌感染」があるかによって、傷痕が残るかどうかが決まります。そのため、やけどが深く大きいほど、細菌が侵入する確率も高く感染しやすいと言えます。

また、深い傷を治す過程で、赤み・かゆみ・痛みを伴います。半年から1年ほどで赤みが薄くなって白く平らな傷痕へと変わっていくでしょう。受傷部位の周りから皮膚が再生され始めますが、範囲によっては皮膚移植が必要なこともあります。

火事で煙や熱気を吸った時は、有毒なガスを吸って呼吸機能に影響が及ぶ恐れがあります。熱い液体を口に入れたことで息苦しそうにしている時も、気道にやけどを負っている可能性がありますので、救急車を要請してください。

あみ先生

また、以下の3つのケースでは必ず病院を受診してください。

陰部・関節をやけどした場合

あみ先生

軽症のやけどの場合は冷やすだけで治まることもあります。ただし、陰部・関節のやけどの場合は特別な治療が必要となるため、必ず病院を受診しましょう。

陰部は尿や便が付着しやすいため、感染症にかかる可能性が他の部位より高まります。関節のやけどでは、「関節拘縮(かんせつこうしゅく)」という、関節が曲がったまま治ってしまう恐れがあります。

出血があり止まりにくい場合

あみ先生

出血しているということは、少なくとも毛細血管の通る真皮まで達している「深達性Ⅱ度熱傷」のやけどで、比較的重症度が高いと言えます。

傷口からの感染を防ぐため、至急受診するようにしましょう。夜間であれば救急外来を受診してください。

すぐに出血が止まり、出血量もそれほど多くなければ、毛細血管までの「浅達性Ⅱ度熱傷」です。診療時間内に受診、または夜間の場合は翌日受診してください。

やけどの面積が体表の10%以上だった場合

あみ先生

Ⅱ度熱傷の面積が体表の10%以上の場合は、基本的に入院が必要です。体幹(頭・首・手足を除いた部分)をお腹側と背中側に分けた場合、片面のおよそ半分程度の範囲が体表の10%です。

例えば、背中の半分以上をやけどしてしまった時は10%以上と判断でき、小児の場合は救急車を要請する必要があります。

しかし、緊急時に子どもが何%の面積にやけどを負ったか判断するのは困難でしょう。ご自身では対応できない、やけどがどの程度の範囲に及んでいるかわからない、とにかく子どもが苦しんでいる場合は、範囲に関わらず救急車を呼んでください。

近年のやけど治療 ~湿潤療法~

以前は、やけどをすると消毒液をかけてガーゼを当て、乾かして治療をするという考え方が一般的でした。しかし近年、消毒液はかえって自己治癒力を弱らせてしまうことが明らかになってきました。

あみ先生

現在は、痛みが少なく傷跡も残りにくい「湿潤療法」が一般的な治療法となっています。湿潤療法とは別名「うるおい療法」「モイストヒーリング」とも言われる、少し湿った状態をキープして傷を治す治療法です。

やけどによって皮膚に傷ができると、傷口から浸出液が出てきます。この体液の中には皮膚が破壊された箇所を修復するための成分が含まれているため、浸出液をむやみに拭き取ったり、乾かしたりせずに、湿った状態にしておくことで皮膚の再生が促され、傷の治りが早くなります。

湿潤療法は日本皮膚科学会の創傷・褥瘡・熱傷ガイドラインにも記載されている科学的根拠のある治療法です。

湿潤療法の3つのメリット

  • 乾燥による神経への刺激をおさえ、痛みが和らぎます。
  • 皮膚の回復に適した環境を整え、体液(浸出液)を保つことで早く治ります。
  • 跡が残る原因になりやすいかさぶたを作らずに、きれいに治します。
あみ先生

「傷口を消毒しないと化膿するんじゃないの?」という疑問があるかと思いますが、傷口が化膿する原因となる感染源(異物または壊死組織)がある場合に限ります。

生物の毛や排泄物による動物性異物、植物片やカビによる植物性異物、かさぶたや汚染された人工物、血腫が感染源です。傷口単体では、感染が起こることはほとんどありません。

むしろ、消毒液には界面活性剤といった添加物が含まれていることがあり、傷口の細胞を傷つける恐れがあります。「流水で洗い流す」ことは、感染源となる物質を洗い流し、傷口の化膿を防ぐ・冷却効果を得られるという観点から、最も効果的であると言えます。

あみ先生

湿潤療法は、重症度や患部の状態を医師が診察したのち行います。安全のため自己判断での実施はせず、必ず医師の指示のもと行うようにしましょう。

身の回りに潜むやけどリスク!家の中の気をつけた方がよいもの

yamada
山田

やけど事故を減らすため、家の中の気をつけた方がよいものを教えてください!

あみ先生

乳幼児は、心身の発達に伴って急速に行動範囲が広がり、行動の内容も豊富になります。色々なものに興味を持ち、物に触れようとしたり、掴もうとしたり、口に入れようとしたりします。

子どもが触れることのできる範囲も、発達に伴って広がります。

例えば、1歳前後の子どもの身長は70~80cm程度ですが、これは一般的なグリル付きコンロのグリル窓と同程度の高さです。

消費者庁や国民生活センターが収集している医療機関からの事故情報によれば、令和2年(2020年)12月までの約10年間で、炊飯器や電気ケトル等による2歳以下の乳幼児のやけど事故は計333件、グリル付コンロによる乳幼児のやけど事故は計50件が報告されています。その他にも、カップに入った飲み物をこぼしたり、加湿器やストーブに触れたりして、合わせて約2,000件のやけど事故が起きています。発達に伴う乳幼児の心身の変化を踏まえて、家の中での以下のものの危険性について点検してみましょう。

炊飯器・電気ケトル・電気ポット等

あみ先生

電気ポットや電気ケトルは、使用中に転倒してもふたが開きにくく中身がこぼれにくいものや、高温の蒸気が出ない、または出る量の少ない蒸気レスのもの、使用中にふたが開かない製品を選ぶのがおすすめです。

また、ベビーゲート等で乳幼児が入れない場所で使用しましょう。

炊飯器は、炊飯中にふたが開かないチャイルドロック機能のある製品を使い、電源コードは着脱式のものがないため、電源コードをまとめるといった配慮をしましょう。電源コードは、子どもが引っ張ったり、移動中にひっかかったりすることがあります。

グリル付コンロ

あみ先生

グリル付きコンロのグリル窓の温度測定テストで、グリル使用時は最高150度に達し、使用後15分を経過しても温度は50度以上を保っているということがわかりました。グリルの使用中はもちろん、使用後も十分に冷めるまで子どもを近づけないよう気をつけましょう。

複層ガラスを用いて高温になりにくいグリル扉を使ったものや、そうしたグリル扉に交換できるものを選ぶのもおすすめです。

その他

アイロン

子どもが使用中の熱いアイロンや、使用後に冷めるのを待っていたアイロンに触った、アイロンのコードを引っ張って倒れた本体でやけどをした、といったケースがあります。ヘアアイロンも同様に事故が発生しています。アイロンを使用する際は子どもを近づけさせない、使用後も十分に冷めるまで子どもの手が届かないところに置く、といった配慮が大切です。

テーブルクロス

子どもがテーブルクロスを引っ張ったり、つまずいたりして、上に置いた熱いスープやみそ汁、飲み物等を倒して、やけどをすることがあります。垂れ下がるテーブルクロスは使用せず、マットタイプのものをしっかり固定するか、何も使わないようにしましょう。

加熱式の加湿器

加温して蒸気を出す加湿器は、蒸気だけでなく本体の蒸気噴出口や、中のお湯も熱くなっています。子どもが加湿器に触れたり倒したりしないよう、手の届かないところに置き、周囲にベビーゲートを設置する対策をしましょう。また、コードを引っ掛けたり引っ張ったりすることがないよう、コードの位置にも注意してください。

真夏日の遊具

8月の気温34℃の公園の遊具や周辺をサーモカメラで測定すると、滑り台やブランコ、砂利が敷いてある公園の地面は、いずれも表面温度が60〜70℃となっています。

あみ先生

また、公園内だけでなく駐車場や道のアスファルトも65~70℃あり、子どもだけでなく大人も触ると火傷の恐れがあるほどの危険な状態です。気温の高い日や時間帯は遊具やアスファルトに触らないように注意しましょう。

子どものやけど事故に関する知識を蓄えておくと、危険がどこに潜んでいるか、安全のためにどのような対策をすればよいかを考えるのに役立ちます。消費者庁や国民生活センターのホームページでは、子どもの事故に関する情報を随時公表していますので、ぜひご活用ください。

まとめ

大きなやけどは重症化すると命に関わることもあります。やけどをしたら何よりも先にまず患部を冷やすことと、乾燥させないことが大切です。陰部・関節・気道のやけどは必ず病院の「形成外科」か「皮膚科」を受診してください。

緊急かどうか判断できない時は、迷わず救急車を要請しましょう。

社会全体でやけどという事故を減らすために、受傷した場の状況を詳しく伝えることも、長期的な目で見ると重要です。

例えば、蒸気がたくさん出る炊飯器に手をかざしてやけどをした場合、医師がその事実を報告することで、「このような事例が再発しないためにも蒸気の出る炊飯器の製造を減らしていこう」という方向にメーカーが動く可能性があります。そのため、やけどをした状況もぜひ細かく伝えて頂きたいと思います。

痛ましい事故が発生しないよう、普段から身の回りのものに配慮するのはもちろん、消費者庁や国民生活センターの情報を活用していきましょう。

万が一やけどをしてしまった時にも、今回ご紹介した内容を参考に、なるべく慌てず適切な処置ができるよう普段から備えて、子どもをやけどから守りましょう!

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この記事を書いた人

yamada
山田怜奈
長野県立大学グローバルマネジメント学科2年の学生ライターです。こどもについてもっと知っていきたいです!

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