「不注意」や「多動・衝動性」を主な特徴とするADHD(注意欠如・多動症)をご存知ですか?最近では、「大人のADHD」というテーマが取り上げられることが増え、その特徴や症状にも注目が集まっています。
今回は、子どものADHDについて言語聴覚士である北山先生にお話をお伺いしました。
具体的な特徴や症状、日常生活で起こりやすい困りごとへの対処法を理解することで、ADHDのお子さんへの適切な接し方について理解を深めていきましょう。
長野県出身。大学より小児医療分野に関わることを目指して言語聴覚士の資格を取得。実習では小児分野を多く経験し現在は脳外科に勤務しながら子育てポケットに参画している。2児の母。
目次
子どものADHD(注意欠如・多動症)とは?
北山先生、よろしくお願いします。
はじめにADHDの特徴について教えてください。
ADHDは注意欠如・多動症と呼ばれることもある、発達障がいの一つです。脳の機能障害によるもので、原因不明ですが遺伝、前頭葉の機能不全、神経伝達物質に関係があるのではないかと考えられています。
基本症状は幼児期から認められ、発達に伴って症状の現れ方や抱える問題は変化します。主な特徴としては、年齢の発達に不釣り合いな「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの症状が見られることです。
ADHD(注意欠如・多動症)と診断されるお子さんはどれくらいいらっしゃるのですか?
2017年のデータでは、子どもの約20人に1人、成人の方でも約40人に1人がADHDと診断されていると言われており、特に珍しい障がいというわけではありません。
幼児期においては、ADHDのお子さんと定型のお子さん、どちらも活発に動き回るのが普通なので、両者を見分けるのは非常に難しいと言えます。あえて言うのであれば、ADHDのお子さんの方が常に動き回っていたり、急に道路に飛び出してしまうなど、より過剰な行動が多く見受けられます。
子どものADHD(注意欠如・多動症)の症状とタイプ
ADHDのお子さんは、「不注意」「多動性」「衝動性」の全ての症状が現れるのですか?
いいえ、それぞれの症状の現れ方や程度はお子さんによって異なります。また、併存障がいを伴うことが多く、発達や生活に与える影響も複雑です。
一般的には、症状の現れ方によって3つのタイプに分類されます。今回はそれぞれのタイプについて、学童期のお子さんに現れやすい特徴と共に紹介したいと思います。
不注意優勢型
不注意優勢型は、「不注意」の特徴が強く現れるタイプです。起こりやすい困りごととしては、勉強でうっかりミスが多い、気が散りやすく授業に集中することができない、忘れ物が多いなどが挙げられます。
また、自分の好きなことについて考えたり取り組んだりしていると、話しかけられても気づかず、周囲の人に「無視をした」と誤解されることもあります。
多動性・衝動性優勢型
多動性・衝動性優勢型は「多動性」と「衝動性」の特徴が強く、「不注意」の特徴があまり出ないタイプを言います。
落ち着きがなくソワソワしてしまう、体のどこかを動かしていないと居心地が悪い、カッとなりやすいなどの症状が見られます。
混合発現型
混合発現型は、不注意優勢型と多動性・衝動性優勢型の特徴を併せ持つタイプです。混合発現型がADHDの約8割を占めているとも言われています
ADHDは男性のほうが現れやすいという話を聞いたことがあるのですが、本当ですか?
たしかに、以前は男性(男の子)に多いと言われていたのは事実です。ですが、現在の研究では、男女比はほぼ同程度に近づいていると報告されています。
【年代別】ADHD(注意欠如・多動症)の子どもに起こりやすい困りごとへの対処法
ADHDのお子さんを持つ親御さんから質問をいただいています。年齢によって起こりやすい困りごとが異なるため、幼児期・学童期の2つの年代別に、北山先生から対処法をお聞きしたいと思います。
【幼児期に起こりやすい困りごと】順番を守るなどのルールが守れない
【質問】
「順番を守ろうね」と教えても、理解できていないようです。どのように教えてあげたら良いのでしょうか?
同じようなお悩みを抱えている親御さんは多いと思います。今回は、2つの対処法を提案させていただきたいと思います。
一つは、ルールを分かりやすく、良い行動として伝えることです。
「立たないで」ではなく「座ろうね」というように、分かりやすい言葉で具体的な指示を出してあげると良いでしょう。また、絵カードを使って視覚的に促してあげるのも良いですね。
もう一つは、ルールを作り、本人が理解して守れるような環境設定をしてあげることです。
ADHDのお子さんは我慢することが苦手な子が多いため、退屈しないようなルールを作り、我慢する時間を減らす工夫をします。
例えば、「この時間は動いても良い時間だよ」と体を動かせる時間を作ったり、動いて良い場所を作るなど、ルールを決めたうえで、何が良い行動なのか具体的に伝えることがポイントです。
ただ「ダメ」と叱るのではなく、お子さんの気持ちを受け止めたうえで、「後で〇〇しようね」と別の提案をしてあげるのもおすすめですよ。
【幼児期に起こりやすい困りごと】お友達に乱暴してしまう
【質問】
保育園でお友達に乱暴してしまいます。注意しても治らず、保育園に通わせるか悩んでしまいます。
最初に少しお話しましたが、ADHDは前頭葉の機能不全が原因である可能性が指摘されています。
前頭葉は、我慢をする、感情を抑制するなどの機能があるため、ADHDのお子さんは乱暴に見えたり、感情の抑制ができず興奮しやすかったりといった傾向が見られます。そのため、保育園などでの集団生活では「集団行動が難しい子」と見なされがちなのです。
対処法としては、まず「なぜ乱暴をしてしまったのか?」というプロセスを理解することが大切だと思います。危険なことは分かりやすくしっかり伝えてあげる必要がありますが、感情の抑制が苦手で乱暴してしまったように見えていても、防御のためにとった行動の可能性もあるからです。
何か嫌なことがあって、その行動をとってしまったかもしれないということですね。
そうですね。特に幼児期のお子さんの場合、ADHDでなくても感情の抑制は難しいものですよね。「何か嫌なことがあったのかな?」と聞いて原因を探ることで、その後の対応を見極めることができます。
また、一つ前の質問の回答と同じで、無理のないルールを作り、「やってはいけないことだよ」と理解させてあげることも大切だと思います。お子さんによっては、ルールに守られているという安心感によって感情を抑制しやすくなり、乱暴が少なくなることもありますよ。
【学童期に起こりやすい困りごと】授業中じっとしていられない
【質問】
小学校の先生から、「授業中椅子に座っていることができず、教室の中を歩き回っています」という連絡がありました。家で注意しても一向に治らないのですが、どのように伝えてあげたら良いのでしょうか?
基本的な対処法は幼児期と一緒で、まず確認した方が良いのは「なぜ動いてしまうのか?」という理由の部分です。
学校の場合、席の場所によって外が気になって立ち上がってしまうケースもあります。その場合は、校庭が見える窓側ではなく廊下側に席を移動してあげることで、動き回りが少なくなることもあります。
お子さんによって様々な原因が考えられるんですね。
感覚過敏の場合、教室の壁に貼られた作品が気になって集中できない…といった事例も聞いたことがあります。作品が風によって揺れたり、反射する光が気になって歩き回ってしまうなど、お子さんによって理由は様々です。
そのため、理由を見つけたうえで、担任の先生と相談しながら環境調整をしてあげることが最も効果的だと言えるでしょう。
自治体によっては、言語聴覚士が学校での様子をチェックして、具体的な対処法をアドバイスしてくれる場合もあります。
同じ学童期でも、小学1年生と6年生では対処法が異なりますか?
そうですね。小学校高学年になると自分で理由を話してくれることが多く、適切な対処をしやすくなるかもしれません。
ですが、我慢するのがしんどいという根本の部分は変わらないので、担任の先生と相談したうえで動いても良い時間を作るなど、環境調整の必要はあるかと思います。
親御さんだけで対処法を考える必要はないので、担任の先生と相談しながら座れる時間を少しずつ長くしていけるようサポートしてあげてくださいね。
ADHD(注意欠如・多動症)の子どもに対する治療や支援法
ADHDの子どもへの治療や支援には、どういったものがあるか教えてください。
ADHDの治療は主に「心理社会的治療」と「薬物治療」の2つがあり、お子さんの特性に合った治療計画を立てます。
まずは、子どもの環境へ働きかける心理社会的治療から始め、対人関係能力や社会性などが身につくような支援を行ったうえで、必要に応じて薬物治療も同時に行うことが多いです。
心理社会的治療
心理社会的治療とは、具体的にどういった治療を行うのですか?
ADHDと診断されてまず検討されるのが、心理社会的治療です。心理社会的治療は、大きく分けて、子どもに働きかける方法と環境へ働きかける方法の2つのアプローチがあります。
まず、子どもへの働きかけとして行われるのが、次の3つです。
コミュニケーション支援
お子さんと面談を行い、困っていることや苦手なことだけでなく、好きなことや言い分を聞いたうえで、その子にあった支援方法を検討していきます。
言語聴覚士が直接面談を行うケースもあり、自分の気持ちを伝えられる年齢でなければ、遊んでいる様子を見て判断することもあります。
行動療法
望ましい行動ができたときに褒めるなど、お子さんにとって好ましいフィードバックを行い、望ましい行動を強化させていきます。
ソーシャルスキル・トレーニング(SST)
社会や周りの人とうまく関わっていくために必要な技術を身につけるためのプログラムです。最近は療育の場や医療機関だけでなく、教育現場でも広まりつつあります。人とのやり取りや感情のコントロールの仕方、学校生活の送り方などを学びます。
次に環境への働きかけとしては、次の2つが挙げられます。
環境調整
本人の困難さに寄り添って、生活しやすくなるように周囲の環境を調整することです。例えば、忘れ物しないように持っていく物リストを作り、親子で確認するなどが挙げられます。
ペアレント・トレーニング
同じ悩みを持つ保護者が集まり、行動療法の理論に基づいて子どもの行動を理解し、関わり方を知るプログラムです。子どもの適切な行動を増やすとともに、不適切な行動を減らしていくような関わりを学びます。
薬物治療
薬物治療とはどういった治療ですか?
薬物治療は、環境調整などで改善が困難である場合、心理社会的治療と並行して実施される治療です。
ADHDは完治するものではないと思いますが、どういった効果があるのでしょうか?
ADHDの薬は、脳機能の働きを助け、特性によって現れる症状を緩和させることを目的に使われます。症状を緩和することで、様々なスキルを習得しやすくなるというメリットもあります。
ADHDの薬は何歳から処方が可能ですか?
現在、日本でADHDに使われている薬は、6歳から処方することができます。処方する際は、医師からその効果や副作用について十分に説明を受けます。
一度飲み始めたらずっと飲み続ける必要があるのですか?
ずっと飲み続けなければならないというものではありません。薬の減量や中止は、本人の状態と周囲の人たちが本人の特性を理解しうまく対応できている状況の2つが長期間持続している場合に検討されます。
こういった状況を把握するためにも、学校での様子を記録するなど、周りの大人たちの協力が必要となります。
ADHDのお子さんと接するには、お子さんの特性に合った接し方や支援の仕方があるんですね。家族や先生たちがどう接するかによって、本人の困りごとを減らすことができ、生きやすさに繋がるということが分かりました。
そうですね。何より大切なのは、家族や学校の先生だけで解決しようとしないことです。小児神経科などの専門医や、地域の保健センター、児童相談所などに相談して、専門家から適切なアドバイスをもらいましょう。
まとめ
ADHDの診断を受けたお子さんを持つ親御さんは、きっと不安な気持ちになりますよね。
日常生活での困りごとを減らしてあげるためには、できない部分に目を向けるのではなく、できることをしっかり認めて、本人の強みを伸ばしてあげることが大切だということが分かりました。
ADHDの子どもの特性を理解しておくことで、保育園や小学校などでADHDのお子さんと接する機会がある際に、戸惑う場面を減らすことにも繋がるでしょう。
ADHDは症状の現れ方も個人差によるところが大きいので、一概に落ち着きがないからといってADHDと判断することはできません。一人で悩むことなく、元気なお子さんの性格を尊重しながら今のお子さんとしっかり向き合ってあげてくださいね。
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この記事を書いた人
広島県在住。0歳女の子の子育てに奮闘するママライターです。 自分が今まさに「知りたい!」と思っているテーマを、皆さんに分かりやすくお伝えします!