最近、「発達障がい」という言葉を耳にすることが増えていると思いますが、具体的にどういう症状なのかわからない親御さんも多いのではないでしょうか。
または、実際にお子さんが「発達障がい」と診断されて悩む親御さんもいらっしゃるかと思います。
今回は、そもそも「発達障がい」とは何か、発達障がいの一つである「自閉症」と診断された場合はどうしたらよいのか、言語聴覚士の北山先生に教えていただきました。
お子さんに合った関わり方や支援法について、理解を深めていきましょう。
長野県出身。大学より小児医療分野に関わることを目指して言語聴覚士の資格を取得。実習では小児分野を多く経験し現在は脳外科に勤務しながら子育てポケットに参画している。2児の母。
自閉症の乳児の特徴とは?
こんにちは。
言語聴覚士さんは、聴覚・言語機能に障がいを持つ人に対し、回復を促すトレーニングをされる専門家とお聞きしています。子どもの発達障がいについて詳しく教えていただけますか?
はい、よろしくお願いします。
発達障がいとは、生まれつきの脳機能の特徴によって、その場に合った行動がとれない障がいのことです。ADHD(注意欠陥多動性障がい)、LD(学習障がい)、ASD(自閉症スペクトラム障がい)や知的障がいなどを含みます。
発達障がいは外見で見分けることができず、特性は人によっても異なるため、単なるわがままや自己中心的と勘違いされることもあります。
発達障がいは先天的な障がいであり、育て方や愛情不足で発症するものではありません。今回は、発達障がいの一つである「自閉症」についてお話させていただきます。
「自閉症」とは何ですか?
3歳頃を目安に診断されることが多い発達障がいの一つです。主に、以下の3つに困難が見受けられるという特性を持っています。
- 社会性
- コミュニケーション
- イマジネーション
かつては世界保健機構(WHO)で「自閉症」という診断名が使用されていましたが、2013年にこの診断名は廃止され、「ASD」「自閉症スペクトラム障がい」と言われるようになりました。
自閉症スペクトラム障がいの中にも様々な特性があり、言語の遅れや知的障害を伴うものや伴わないもの、逆にある分野で優れた才能を発揮する場合もあります。
ギフテッドと呼ばれる場合ですね。
そうです。アスペルガーの場合、その特性を活かして研究者になられている方も少なくないです。
そうなのですね。ASDの特徴は、赤ちゃんだとどのように表れますか?
ASDの特性も様々です。例えば、特定のおもちゃにだけ強い興味を持ち、何時間も遊んでいることが多いです。目線は合いにくく、名前を呼んでも反応が乏しいこともあります。
一人でニコニコしていて一見手がかからないように見えますが、パニックになると落ち着くまでに時間がかかることもありますね。感覚が過敏なため、抱っこ等を嫌がる子もいます。
2~3歳時に見られるASD傾向のお子さんの特徴は、どんなものがありますか?
言葉が出るのが他の子よりも遅れていて、出始めていても独語(独り言)であることが多いです。指さし行動も少ないのですが、年齢が上がってくると非言語コミュニケーションをする子もいます。表情の変化において不自然さが残っていることもあります。
表情の変化は素人でも見分けられるものですか?
程度にもよるので何とも言えないですが、若干の違和感があるので、見分けられる可能性はあります。
その他の特性としては、特定のものへの強い興味を持ちやすいため、外出先では親とはぐれやすく、迷子にもなりやすいでしょう。興味がある特定の内容については、反復的な要求を際限なくしたり、その要求は特定の質問形式であったりすることが多いです。
具体的にどのような要求内容が考えられますか?
例えば、音楽が鳴るおもちゃで遊んでいる時に「お歌(音楽)を鳴らして、鳴らして!」ではなく「お歌(音楽)言う?」といった要求の仕方をしてきます。
その他の特性はありますか?
視線が合わないこともありますが、ASD児の特性イコール目が合わないというわけではありません。よく相手を見つめることもあります。
専門的にはエコラリアと言いますが、オウム返しをすることもありますね。例えば、子どもとの会話で親が「何して遊ぶ?」と聞くと、子どもも「何して遊ぶ?」と返してくる。そして親が混乱してしまうことが起こります。
また、イマジネーションが弱いので相手のことを考えづらく、同年代の子とトラブルが起こりやすいです。
おもちゃの取り合いなどは健常の二歳児でもあることなので例えが出しづらいのですが、子ども同士のやり取りが難しいという感じです。そのため、柔軟に対応してくれる親や先生の近くにいることを好みます。
好き嫌いが激しく、特定の食べ物しか食べないとか、衣服も特定のものを好むなどの傾向があります。
例えば、肌触りが綿素材じゃなければダメで、それ以外のものを着てみるとパニックになるなど。聴覚が過敏で大きな音が苦手、一人を好むなどもあります。
他に、急な予定変更に弱く、いつもと違う予定が入るとパニックになることも。ASD児は視覚的な記憶力が強いことが多く、例えばいつも車があるのにそこにないと、前見た時と景色が違う!と感じてパニックになる可能性があるのです。
ASDの診断がされた後のかかわり方
子どもがASDと診断された場合。今後はどう接したらいいのか、教えてください。
発達障がいは子どもの発達が間違っているとか、子どもの未来が否定されるものではありません。
あくまで多数派ではなく少数派にいるという認識を持っていただくことが重要で、多数派のマニュアル通りに行きにくいことが多い、ということです。
障がい受容という言葉がありますが、親が無理に理解することを頑張りすぎる必要はないと思います。
発達障がいは完治はしませんが、サポート次第でお子さんの生き方や生きやすさは変わっていきます。
担当医とよく相談をし、お子さんに合ったサポートや療育をしましょう。療育手帳や精神障害者保健福祉手帳を取得することで、福祉サービスも利用できます。
こだわりが強く、気に入ったおもちゃ以外で遊ばない場合はどう工夫したらよいですか?
親はいろんなおもちゃで遊んでほしいと感じるかもしれませんが、お子さんなりにそのおもちゃを気に入っている理由があるはずです。
ポイントとしては、そこに問題が生じているか?ということです。特に問題なければ、お子さんが自分の興味を突き詰めるのがよいのではと思います。親ができることがあるとすれば、より興味を深められる何かを与えるという感じですね。
例えば、虫の絵本が好きでずっと見ているのであれば、さらに詳しく書いてある図鑑を買ってみるとか。わざわざ他に目をやるよりも、お子さんに沿ったサポートをしてあげられればよいのではないでしょうか。
「そのおもちゃが好きなんだね」「そのおもちゃが安心するのかな」と受け止めてあげましょう。
もし、保育園等でほかのお子さんが欲しているのに独占している場合には、「順番」「交換」などがイメージできる写真やイラストを用意して、促しましょう。
出かけるたびに子どもがパニックになる場合はいかがでしょうか?悩まれている親御さんも多いと思います。
視覚的にスケジュールをあらかじめ伝えてあげることが効果的です。いつもと違う場所に出かける際には、子どもにもわかるように写真やイラストで見せて教えてあげましょう。
例えば、電車に乗るのなら「電車の写真」を見せて、「今日は電車に乗ります」と伝えれば、予定がわかって安心するでしょう。
また、子どもの年齢にもよりますが、コミュニケーションが可能であればお子さんの言い分を聞いてあげるのも大切です。どうして嫌なのかを聞いて共感してあげるイメージです。
パニックになりやすい子なら、お子さんが安心できる音楽を聞かせたり、落ち着ける香りやおもちゃを持ち歩いたりするのもおすすめです。
自閉症の赤ちゃんのことを相談できる場所はありますか?
地域ごとに、発達障がい者支援センターや保健センターがあります。自治体によっては、発達相談窓口を設けているところもあるので、心配事があったら相談しましょう。味方になってくれて不安を解消してくれる場所ですので、ぜひ積極的に利用してください。
トレーニングが受けられると聞きました。どこにありますか?
発達障がい者支援センターでトレーニング(療育)が受けられます。発達障がいに特化したサポートを実施し、家庭内療育についてのアドバイスも行っています。
発達障がいの訓練とは、どんなものがあるのですか?
支援として重要なことは、子どもの「自己効力感」を高めてあげることです。自己効力感が高いとは、「自分に自信を持てる状態」とイメージしてください。
ASDのお子さんの特性は幅が広いので、その子にあった困りごとに対処していく、減らしていくことを考えた方がよいと思います。
社会生活を送れるようにするサポートとして、以下の3つのトレーニングが一般的です。
1.構造化トレーニング
「ちょっと待っていてね」「このあとご飯だよ」と言っても、あいまいな表現では見通しが立てられず、不安や恐怖心が高まってしまいます。
そこで、ホワイトボードにスケジュールのイラストを貼ったり、時間に印をつけてめどが立つようにしたりします。
2.ソーシャル・スキル・トレーニング
気分を害したからといって友達をたたいたり噛みついたりすれば、トラブルになります。そういったことを回避する訓練をするのがソーシャル・スキル・トレーニング(社会生活技能訓練)です。
絵本やイラスト付きのクイズなどの疑似体験を通して、上手な感情の出し方や伝え方、ストレスの対処などを覚えていきます。
3.感覚トレーニング
サイレン音が爆音に聞こえて泣き出したり、衣服のチクチクが気になって着られなかったり、感覚が過敏な部位や程度には、個人差が大きいです。
まずは苦手な刺激を理解し、対策を講じていきます。たとえば、音に敏感ならイヤホンをつけて移動をするとか、皮膚感覚が敏感なら、綿100%の衣類を用意するなどです。
この訓練は、健常者とうまくやっていくために行うということですか?
子ども自身の困りごとを減らすためにやっていくというイメージです。困りごとが減れば、自分の興味が持てる得意な分野にもっと没頭できるでしょう。
まとめ
発達障がいについてある程度理解していても、いざ子どもが発達障がいと診断されたら、心中は複雑だと思います。けれど、発達障がいは先天的な脳の特性です。誰のせいでもありません。
発達障がい者支援センターや保健センターなど、相談やトレーニングできる場所も用意されています。一人で抱え込まずに、相談や支援先を積極的に活用しましょう!
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この記事を書いた人
子育てポケット編集長。
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