子どもが災害などの衝撃的な体験をした時、それがきっかけとなって、子どもの様子に普段と異なる変化が見られることがあります。
今回は、「ストレス体験(トラウマ)とは何か?」「子どものトラウマに保育者はどんな対応をするべきか?」について、ライターの金子が臨床心理士のへだ先生に取材しました。
子どもにどのような変化があるのかを知っておき、また、その変化がストレス体験による可能性があることを理解し、保育者が適切に対応することができれば、心に傷を負った子どもの支えになるはずです。

療育コーディネーター(臨床心理士)
へだ先生
北信圏域療育コーディネーターとして、様々なタイプのお子さんやご家族、関係者の皆さんが、安心して前向きに毎日を過ごせるような地域の仕組みづくりに取り組んでいます。子どもも大人も1人1人で異なる体験世界を大切に、それぞれにとっての”いい塩梅”を探っていけたら嬉しいです。
子どものストレス体験(トラウマ)となりうるものとは?

私は大学で保育について学んでいますが、災害などで心の傷を負った子どもたちには特徴的な遊びや行動をする傾向があると聞きました。
もっと詳しく知りたいので、子どものストレス体験(トラウマ)について教えていただきたいと思います。
まず、ストレス体験というのはどのような体験を指すのでしょうか?

地震・火事・台風といった災害や、事故・事件・虐待、身近な人との死別など、ひどく衝撃的な体験のことを、ストレス体験(トラウマ)と呼びます。
このストレス体験は、心や体に負の影響を及ぼすことがあります。
心身への影響が長期にわたって続き、日常生活に支障が出る場合、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されることもあります。

迷子になったり押し入れに閉じ込められたりした経験も、お子さんによっては忘れられないような恐ろしい体験として心の中に残ることもあります。
心に傷を負った子どもの行動

ストレス体験によって、子どもの行動や遊びにどのような特徴が表れるのでしょうか?

心の傷を負った子どもは、その体験を何度も思い出したり、現状が安全であることを確認するための行動をとったりします。
具体的には、以下のような行動です。
- ストレス体験を繰り返し思い出して、それが現実であるように感じたり行動したりする
- ストレス体験について何度も話す
- ストレス体験に関連した遊びをする
- 表情が乏しい、無口、元気が無い、遊ばないなど活動性が下がる
- 激しく怒ったり泣いたりする
- 不眠になる
- 養育者や信頼できる大人にまとわりつく
- 赤ちゃん返り、夜尿、指しゃぶりなどの退行現象が出る

子どものこういった行動には、どんな意味があるのでしょうか?

これらは、子ども自身が安心感を取り戻すため、また、危機から心身を守るために取っている行動です。
子どもたちは、災害や事故の複雑な因果などを理解することがまだ難しいです。
そのため、危機が去っても気持ちが張り詰めて落ち着かず、ストレス体験を繰り返し思い出して、パニック反応が出てしまうことがあります。
また、ストレス体験を遊びにしたり何度も話したりすることを通して、その子が持っている限りの手段で出来事を整理し、ストレスに対応しようとしているケースもあります。

子どもたちは複雑な感情を学んでいる途中で、言語化したり整理したりすることが大人に比べて苦手だからこそ、上記のように特徴的な行動として表れることがあります。

特徴的な行動があった時、大人は普段と異なる子どもの姿を見て驚くかもしれませんが、その子なりに消化しようとしている姿なのだと理解して、受け止めるとよいのですね。
保育者ができること

心に傷を負った子どもに対して、保育者はどのようなサポートができるのでしょうか?

子どもに前項のような反応が見られる時は、保育者は親御さんと連携しながら、市町村の保健師・児童精神科医・臨床心理士などの専門家の支援が受けられるようにしましょう。
園によっては、専門家が巡回に来て保育士と専門家で相談できる機会もありますので、心に傷を負った子どもとの関りに疑問や不安がある場合は活用してみてください。

さて、これから挙げるサポートの方法や心がけは、あくまで一例と捉えてください。
中には以下のような保育者の配慮が、子どもにとって負担になる場合もあるからです。
たとえば、子どもが一人になりたいと思っているにも関わらず、保育者がよかれと思ってスキンシップをとろうとしてしまうと、安心できる状況にならず、子どもの負担になってしまいます。
安心できるサポート方法はひとりひとり違うということも理解しておき、その子にとって安心して過ごせるような関わり方をしていきたいですね。
安心感のある生活をつくる
- リズムを崩さず、今まで通りの生活をする
- 安全であることを言葉で伝える
- 子どもが信頼している大人ができるだけそばにいる
- スキンシップをいつも以上に持つ
- 不安になる状況・嫌がることをできるだけ排除する
- トラウマ反応のない時間の関わりも大切にして、信頼関係を深める
トラウマ反応を理解する
- トラウマ反応を見せても、落ち着いた対応をする
【トラウマを再現するごっこ遊びをしている時】
- その時の状況や気持ちを整理するための過程と捉えて、見守る
- 積み木やぬいぐるみを用意して、表現に役立てる
【体験について繰り返し話す時】
- その度に子どもの話に耳を傾ける

子どもに安心感を与え、気持ちを理解してあげることが大事なのですね。これらを参考にしながら、ひとりひとりに合わせた関わり方を模索したいと思いました。
災害ごっことは?

東日本大震災の後、各地の子どもが「地震ごっこ」や「津波ごっこ」をする様子が見られたそうです。恐ろしい体験をごっこ遊びにする子どもたちの背景や、保育者の適切な対応を教えてください。

地震や津波、火事などを再現して「逃げろー!」などと声を出して、子どもたちがごっこ遊びすることがありますね。
こういった災害ごっこは、子どもたちにとって圧倒的で強く印象に残った出来事を、遊びとして再現して、「今は安心できる状況であること」を確かめていく行動なのです。
過去のネガティブな体験を振り返り、解釈・整理しなおしていると言えますね。

なるほど、災害ごっこは、災害の経験を受け止めていくための前向きな行為で、子どもたちは知らず知らずのうちにそれを行っていたのですね。

そうですね。実際に災害ごっこを目にした時、保育者の方々に気をつけてほしいことは3つあります。
- やめさせたり、叱ったりしない
- 災害から助かって物語が完結するように働きかける
- 周囲の子どもの中に、怖がっている子どもや輪に入りたがらない子どもがいないか観察し、他の場所に誘ったり、大人がそばにいるよう配慮したりする

保育者自身も、災害によって心の傷を負っている場合もあります。
そんな時、子どもたちが災害ごっこをする姿を目の当たりにすると、辛い気持ちになったり、思わずやめさせたりしてしまうかもしれませんね。
あまり自分を追い詰めることなく、自分自身の心の状態を見つめなおすきっかけにしようと考えたり、同僚の協力を得たりして、保育士の先生自身も無理をせずに過ごせることが大切だと思います。

行動の背景を知っておき、先生自身も無理はしないように子どもたちを手助けしていって欲しいと思います。
まとめ
大きな災害や事故などのストレス体験(トラウマ)を経験した子どもは、心や体にその影響を大きく受け、特徴的な行動として現れることがあります。保育者にとって、そういった子どもの突然の変化に不安や戸惑いを感じてしまうかもしれません。
ですが、これらの反応は子どもがストレス体験(トラウマ)を整理し、安心を取り戻そうとする自然なプロセスであるとわかりました。
保育者にできることは、トラウマ反応に対する理解を深め、その子に寄り添った関わり方で安心感を醸成していくことです。
ただし、保育者自身も災害などを経験して、心に痛みを抱えているケースもあります。その場合は無理せず、周囲の人や専門家の支援を受けましょう。
トラウマを抱えた子どもたちが安定した日常を取り戻せるよう、親御さんや専門家と連携して、ひとりひとりに合ったサポートをしていけるとよいですね。

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