朝、いつも通り子どもを園に送り出したあと――
その数時間後に大きな地震や豪雨が起きたら、あなたはどう感じるでしょうか。
「今、うちの子は大丈夫だろうか」「園ではどんな対応をしてくれているのだろう?」
多くの保護者が真っ先に頭に浮かべるのは、きっと子どもの安全のこと。
保育園では、もしもの時に備えた「災害時マニュアル」が整備されています。けれど、実際にどんな内容で、どんな風に動くのか――保護者が知る機会はあまり多くありません。
今回、私たちは現場で子どもたちを守る保育士さんに、「災害時、園ではどんな行動をとるのか」「保護者はどう備えればいいのか」について、具体的にお話を伺いました。

ちか先生
県外の保育園で勤務した後長野に戻ってきました。みらいくに入職し5年目となります。子どもたちの「やってみたい!」という思いを大切に、なんでも一緒に取り組み、楽しみながら保育をしています!
園での災害時対応マニュアルとは?

今日はお忙しい中ありがとうございます。普段は子どもたちの笑顔であふれる園ですが、災害はいつ起きるかわかりません。今回は、保育園での災害時の備えやマニュアルについて、詳しく教えていただければと思います。よろしくお願いします。

こちらこそ、ありがとうございます。災害への備えは「起きてから」では遅いので、日頃から職員全員で意識を高く持って取り組んでいます。少しでも保護者の方に安心してもらえたら嬉しいです。

まず、保育園にはどんな「災害時マニュアル」が整備されているのでしょうか?

園では、「地震」「火災」「風水害」「停電」「不審者」など、想定される災害ごとに対応マニュアルを作成しています。内容は避難経路や安全確認の手順、保護者への連絡方法、引き渡しのルールまで、かなり細かく決められているんですよ。

行政に提出する“形式的なマニュアル”とは別に、現場で実際に使う“動くためのマニュアル”があるということですね。

そうなんです。行政から防災計画提出やBCP(業務継続計画)策定などを求められますが、実際に動くのは私たち現場の先生チームです。
「どこに誰が集めるのか」「どのタイミングで保護者に連絡するのか」など、現場目線で使いやすい形に落とし込んでいます。年度ごとに避難経路や随時、非常持ち出し袋の中身も見直しています。非常食や水も賞味期限をチェックして、定期的に交換しています。

災害の種類によっても動き方は変わりますよね?

はい。地震ではまずガラスなどから身を守るための行動、たとえば安全な場所に移動することを最優先にし、幼児であれば「頭を守る」に指示します。また、台風や大雨の場合は「高い場所に避難する」ことを意識します。園の立地によっても対策は違いますね。川のそばの園では水位情報を常に確認して、早めに避難判断を行うようにしています。

状況判断が重要なんですね。そうした判断はマニュアルに書かれているんですか?

基本の流れはマニュアルにありますが、そのタイミングで居合わせる職員の連携や子どもの安全を守るなど“現場での判断”が求められる場面も多いです。だからこそ毎月の避難訓練が欠かせません。「子どもが泣いた時」「想定外の場所で起きた時」など、訓練を通じて柔軟に対応できるようにしています。

保護者としては、マニュアルの内容をどう知ることができるのでしょう?

年度初めの保護者会で概要を説明したり、引き渡し訓練を実際に行ったりする園も多いです。今は保育園ごとに「安全計画の策定」が義務化され、保護者に周知をしています。最近ではアプリや園だよりを通じて、災害時の流れを共有することも増えました。“知っていることで安心できる”というのが大切だと思っています。

実際にお話を聞くと、保育園のマニュアルは“命を守る現場の教科書”ですね。

本当にその通りです。子どもたちの命を守るために、常に「最悪を想定して最善を準備する」。マニュアルはそのための土台であり、日々の訓練が命を守る力になります。
災害時の具体的な行動フロー
――実際に災害が起きた時、先生たちはどう動く?

マニュアルの内容がしっかりしているのはわかりましたが、実際に災害が起きた瞬間、先生たちはどんな行動を取るのでしょうか?

まずは「子どもの安全を確保すること」が最優先です。地震の場合は「ダンゴムシのポーズ」と呼んでいる、頭を守る姿勢を子どもたちに取らせ、棚やガラスから離れた安全な場所に集まります。
その後、一度外に出て、職員同士で安否確認・人数点呼を行い、保育園の建物が安全なら保育園に戻ることを優先します。場合により、決められた避難場所へと避難開始するケースもあり得ます。

動きがとても具体的なんですね。先生方がパニックにならないようにするのも大変そうです。

はい、だからこそ日頃の訓練が大切なんです。保育園では毎月1回の防災訓練と初期消火訓練が義務づけられているので、必ず実施しています。地震・火災・水害など、月ごとに想定を変えて行うことで、どんな状況でも動けるようにしています。
また、年2回の不審者対応訓練、そして年1回の「災害時の保護者への連絡・引き渡し訓練」も行っています。この引き渡し訓練は、実際に保護者の方にも来ていただき、災害を想定した“連絡が取れない状況”などを再現して行います。場合によっては、消防署と連携して消防車に来てもらったり、実際に訓練用の消火器を使ってみたりもします。

そこまでリアルに訓練しているんですね!実際の訓練では、子どもたちはどんな様子ですか?

最初は泣いてしまう子もいますが、繰り返すうちに「避難訓練=先生と一緒に頑張る時間」として受け止められるようになります。
最近では、「おててつないで逃げるんだよね」と自分から声を掛けてくれる子もいます。繰り返し訓練をする中で、防災を“怖いもの”ではなく“みんなで守る約束”として伝えるようにしています。

先生たちも毎回大変だと思いますが、訓練を重ねる中で感じることはありますか?

やはり「マニュアル通りにはいかない」ということです。子どもの人数やその日の職員配置、体調不良の子の有無によっても状況は変わります。
でも、訓練を重ねていると「次に何をすべきか」が自然と身体に染みついてくるんです。それが本番で子どもたちを守る力になります。

とても心強いお話です。保護者としても、園でここまで訓練していると知るだけで安心しますね。

そう言っていただけると嬉しいです。私たちは「子どもを預かる」だけでなく、「命を預かる」仕事をしています。だからこそ、訓練は“日常の延長”として欠かせません。子どもたちの命を守るために、これからも全員で取り組んでいきます。
マニュアルだけでは守れない「現場の判断」
――災害時に本当に大切なことは何か?

マニュアルや訓練がしっかりしていても、実際の災害時は想定外のことが多いですよね。そんな中で、先生方が大切にしている「現場の判断」とはどんなものでしょうか?

そうですね、マニュアルはとても大事な“基本の道しるべ”ですが、実際の現場では書かれていないこともたくさん起こり得ます。
たとえば、地震のあとに停電して非常灯しかつかない状況や、通信が不安定になって保護者と連絡が取りづらくなる場合も想定しています。
そうした “想定外”の状況でどう判断するかが、現場の力だと思います。

なるほど。マニュアルにない場面で、どんな点を重視されているんですか?

まず大切なのは、職員同士の声の連携です。「誰がどのクラスを担当しているか」「どのルートが安全か」などを、普段から言葉で確認し合う習慣をつけています。
リーダーを中心に、状況を見ながら「このまま園内で待機する」「避難所へ移動する」など、子どもの安全を最優先に判断します。

マニュアルがあっても、最終的には人の判断が鍵になるんですね。

はい、その通りです。私たちは「マニュアルに人を合わせるのではなく、人にマニュアルを合わせる」ということをたびたび確認し合っています。
同じ災害は二度と起きません。だからこそ、日々のコミュニケーションや信頼関係が、本当の意味での防災力につながるんです。

先生たち同士のチームワークが大切なんですね。

そうなんです。誰かが冷静に声を出してくれるだけで、園全体が落ち着きます。
日常の中でも「避難袋の位置確認した?」「年2回の非常ベルの点検そろそろだね」など、小さな声掛けを積み重ねています。
そうした“普段のつながり”が、いざという時の安心につながると感じています。

マニュアルは大事な土台ですが、最後に子どもを守るのは先生方の判断と心なんですね。

はい。どんな時も子どもたちは大人の表情をよく見ています。私たちが落ち着いて笑顔で行動すれば、子どもたちも慌てずにすみ、安心につながります。
マニュアルと同じくらい、「安心を伝える力」も大切にしています。
一番大切なのは「信頼関係」
――園と家庭が一緒に子どもを守る

お話を伺って、園での備えがとても丁寧に行われていることがわかりました。最後に、保護者に伝えたいことはありますか?

どんなにマニュアルや訓練を重ねても、災害時に一番大切なのは「園と家庭の信頼関係」だと思います。お互いが「きっと園で守ってくれている」「きっと迎えに来てくれる」と信じ合えることが、子どもたちの安心と安全につながります。
まとめ
取材を通してわかったことは、「災害時の対応」は特別なことではなく、日々の保育の延長線上にあるということでした。子どもたちの命を守る力は、分厚いマニュアルや最新の設備だけでなく、先生たちの“声の掛け合い”や“子どもを見るまなざし”の中に息づいています。
「もしもの時にどう動くか」は、園と家庭が共に考えるテーマです。普段から防災の流れを知り、先生たちの姿勢を理解しておくことで、いざという時に互いを信じて行動できる――そんな関係こそ、子どもにとって一番の安心になるはずです。

子育てに役立つ情報を取材していきます。
